大判例

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東京高等裁判所 平成11年(う)1016号 判決

被告人 齋藤辰雄

〔抄 録〕

論旨は、要するに、原判決は、被告人が、東京都品川区内の当時の濱砂松代方で、(一)平成一一年二月七日ころ、覚せい剤を自己の身体に注射して使用し(原判示第一)、(二)濱砂と共謀の上、同月八日、覚せい剤約一・六六七グラムを所持した(同第三)との事実を認定しているが、この認定の基となった証拠には証拠能力がない、すなわち、警察官は、平成一一年二月八日午前九時三〇分ころ、出勤のため駐車場へ向かっている被告人を呼び止め、肩を押さえて強制的に濱砂松代方に連れ戻した上、同人及び被告人の承諾なく部屋を捜索して証拠品を押収したが、このような捜査手続は、逮捕状なく被告人の身柄を拘束した点で憲法三三条及び刑訴法一九九条に違反し、かつ、捜索差押許可状なく捜索差押をした点で憲法三五条及び刑訴法二一八条に違反するものであって、これにより得られた証拠はすべて違法収集証拠として排除されるべきである、したがって、これらの証拠を有罪認定に用いた原審の訴訟手続には法令違反があり、それが判決に影響を及ぼすことは明らかである、というのである。なお、内山弁護人は、右控訴趣意には、有罪認定をしたことについての事実誤認の主張も含まれていると解すべきであると主張するが、前記控訴趣意書中に控訴趣意第一として記載されているところを精読しても、そこに刑訴法三八二条の事実誤認の主張が含まれていると解することはできない。

そこで検討すると、右控訴趣意には、刑訴法三七九条にいう「訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現れた事実」の援用がなされていないことが明らかである。原審記録によれば、被告人は原審第一回公判期日において本件公訴事実をすべて認め、検察官が証拠として請求した尿及び覚せい剤の各鑑定書等を含むすべての証拠について証拠とすることの同意がなされ、適法にその取調べがなされたことが認められる。そして、これらの証拠に証拠能力がない旨の主張は当審で初めてなされたものであって、訴訟記録及び原審で取り調べた証拠を精査しても、所論のような訴訟手続の法令違反があることを信ずるに足りる事実の存在は全く窺うことができない。なお、内山弁護人は、援用すべき事実として、原審記録にある現行犯人逮捕手続書に記載されている「被疑者齋藤辰雄、同濱砂松代がフラッツリー二〇二号室から出てきたので呼び止め、被疑者等に二〇二号室に案内させ(た)」との事実を挙げるが、それが明らかに判決に影響を及ぼすべき法令の違反があることを信ずるに足りるものでないことは明白である。

また、内山弁護人は、被告人が原審で右のような捜査の違法に関する主張をしなかったのは、警察官から悪いようにはしないから余計なことは言うなと口止めされ、弁護人からも裁判所の心証を悪くすると言われたからであり(警察官が法廷を傍聴していたという事情もある。)、そのような事情は刑訴法三八二条の二第一項の「やむを得ない事由」に当たる旨主張する。しかしながら、仮に、刑訴法三七九条の訴訟手続の法令違反の主張についても刑訴法三八二条の二の適用ないし準用があるとしても、右のような事情が同条一項の「やむを得ない事由」に当たるとは到底認められない。この点の所論も採用できない。

さらに、内山弁護人は、右控訴趣意は重要な論点に関するものであるから、職権で事実取調べをして調査すべきである旨主張するが、当裁判所としては、右控訴趣意の内容のほか、本件の事案、証拠関係、審理経過(当審における弁護人選任等の経緯を含む。)等を総合考慮した結果、所論のような職権調査は行わないこととしたものである。

本控訴趣意は、刑訴法三七九条等の要件を欠く不適法なものというほかない。

(安廣文夫 羽渕清司 金谷暁)

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